初めて個人事業主やフリーランスになる場合、会社員とは全く違う税金制度になることに不安を覚える方も少なくはないでしょう。この記事では、個人事業主が収めるべき税金の種類と計算方法について、極力わかりやすくまとめました。確定申告直前に慌てることのないよう、しっかりと確認し、余裕を持った納税に役立てていただければと思います。
税金の早見一覧表
まず、個人事業主が支払うべき主な税金の種類、支払い期日や納付場所をわかりやすくまとめました。
土日などで日にちが若干前後しますが基本的には納付時期は毎年同じです。

個人事業主が納めるべき税金の種類とは?計算方法もご紹介
個人事業主が納める税金の主な5種類について説明していきます。それぞれ、申請期限や納付期限が異なりますので、1つずつ丁寧に確認していきましょう。
所得税
所得税とは、1年間の「所得」にかかる税金のことです。所得とは、1年間の収入から事業に使った経費や控除を差し引いた残りの金額のことを言います。
ほとんどの会社員の場合、会社が給与の一部を「税金の支払い分」として差し引き、従業員の代わりに「源泉徴収」をしています。しかし、個人事業主やフリーランスの場合、所得税の計算や確定申告、納税に至るまで全ての手続きを自分で行なう必要があるのです。
ポイント
- 所得=収入-経費・控除等
- 確定申告書には、申告書A(会社員向け)と申告書B(事業者向け)がある
- 確定申告・税金の納付は、翌年の2/16~3/15が基本
所得税の計算方法
所得税は、収入から経費・控除等を差し引いた「所得」に課税されます。収入から差し引かれる控除には、所得控除、税額控除などがあります。
所得金額から差し引かれる金額(所得控除) / 税額控除|所得税|国税庁
基本的な計算方法は次の通り。
- 1年間の収入から経費分を差し引く
- 所得から所得控除、税額控除を差し引く
- 課税所得に税率をかけた金額が所得税
計算式で表すと、
- 売上-必要経費=所得
- 所得-(所得控除※1+税額控除)=課税所得
- 課税所得×税率=所得税
となります。
※1 所得控除には、基礎控除38万円を含む
以下は、課税所得に対する税率と控除額の早見表です。
所得税の税率早見表
課税所得 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円~330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円~695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円~900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円~1800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1800万円~4000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4000万円~ | 45% | 4,796,000円 |
計算式だけでは少しイメージしづらいと思いますので、具体例をあげて説明します。
例)収入500万円、経費200万円、控除50万円の場合
- 500万円(収入)-200万円(経費)
=300万円(所得) - 300万円(所得)-50万円(控除)
=250万円(課税所得) - 250万円(課税所得)×税率(10%)
=25万円(所得税)
※平成25年~令和19年までは、別途「復興特別所得税」を納付する必要があります。
国税庁:個人の方に係る復興特別所得税のあらまし
2020年以降の基礎控除変更について
2021年(令和3年)の確定申告より、所得税の基礎控除額が変更されます。変更後の基礎控除額は下記の通りです。
合計所得金額 | 基礎控除額 |
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円~2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円~2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円~ | 0円 |
年間の所得が2,400万円以下の方は、今までより10万円多く控除されます。逆に、2,400万円以上所得がある方は、基礎控除の額が減るため、やや納税額が増えます。
参考:基礎控除ってなんや?2020年から増税?給与所得控除も要チェック|メディカルタックス
住民税
住民税とは、「都道府県民税」と「市町村民税」の総称です。自治体による福祉・行政サービスの資金のために徴収されます。所得税との大きな違いは、納税の時期が当年ではなく、翌年であること。
また住民税は、住んでいる地域と収入によって納める金額が異なり、前年の所得をベースに翌年の金額が決まります。
会社員の場合は、給料から天引きされるケースが多いですが、個人事業主の場合には、自分で納める必要があります。3月に確定申告してから3ヶ月後の6月から年4回の分割納付が開始します。納付は2ヶ月おきとなるため、資金管理をしっかりして、払いそびれたり、キャッシュフローがショートしたりしないよう注意しましょう。
ポイント
- 確定申告をすると、5月あたりに住民税の納付書が郵送で届く
- 納付期限は4回(6・8・10・翌年1月)
一括納税も可能
住民税の計算方法
「都道府県民税」と「市区町村民税」は、それぞれ「均等割」と「所得割」に分けられます。
まずは、住民税を計算するために必要な均等割と所得割についてみていきましょう。
均等割とは、所得に関係なく、全員に平等にかかる税金のことです。東京都の場合は、都道府県民税1,000円と市区町村民税3,000円に加え、令和5年まで復興特別税500円が両方に課せられます。(均等割の税額は、所得や被保険者数、住む地域によって異なります。)
所得割とは、納税者の前年の所得に応じて納める税金です。前年の所得から扶養親族や国民年金や生命保険などの費用を引いた額に税率をかけた額になります。
「均等割」と「所得割」一覧表(東京都の場合)
(復興特別税※1) | +500円 | +500円 |
合計額が住民税 |
※1 「復興特別税」は東日本大震災の復興に必要な財源を確保するための特別措置。令和5年まで加算されます。
住民税の詳しい計算方法は次の通りです。
所得割の計算方法
(所得-所得控除※1)×税率 = 所得割
※1 所得控除には基礎控除額として一律33万円を含む
具体的な数値を入れて住民税を計算してみましょう。
例)所得400万円、所得控除33万円(基礎控除)、経費100万円、税額控除額0円の場合。
- (400万円-133万円)×10%
=26.7万円(所得割) - 26.7万円(所得割)+5,000円(均等割)=27.2万円(住民税)
消費税
消費税とは、商品・製品の販売やサービスの提供などに対して課税される税金で、消費者が負担し事業者が納付します。
個人事業主の場合は、開業2年目に前年の1~6月の課税売上高(消費税を抜いた売上のこと)が1,000万円を超えた場合、もしくは、開業3年目に一昨年の1~12月までの課税売上高が1,000万円を超えた場合に、消費税の納付が必要です。確定申告とは別の手続きが必要となるので注意しましょう。
ポイント
- 消費税の納税の必要可否は、課税売上高が1,000万円を超えるかどうかがボーダーライン
- 消費税を納税する場合は、確定申告とは別の手続きが必要
ここからは消費税に関して、より詳しい内容を知りたい方向けの説明をしていきます。概要を知れたので十分という方は、個人事業税までスクロールしてください。
まずは、用語の説明からです。
※今回の説明では、2020年を当年として説明していきます。
用語 | 意味 |
基準期間 | 納税義務を判定する年の「前々年」のこと 例)2018年1月1日~12月31日 |
特定期間 | 納税義務を判定する「前年の前期」のこと (1年間ではなく1月1日~6月30日まで) 例)2019年1月1日~6月30日まで |
課税事業者 | 税金の納付義務がある事業者 |
免税事業者 | 税金の納付義務が免除される事業者 |
上記の用語を踏まえ、課税事業者と免税事業者に分けられる際の判断基準をまとめてみました。
課税事業者と免税事業者の比較一覧表
課税事業者 | 免税事業者 | |
基準期間 | 課税売上高が 1,000万円を 超えている | 課税売上高が 1,000万円を 超えていない |
特定期間 | 課税売上高が 1,000万円を 超えている | 課税売上高が 1,000万円を 超えていない |
書類の届け出 | 消費税課税 事業者届出 の提出が必要 | なし |
特別待遇 | - | 開業1年目は、 自動的に免税事業者 が適用される |
補足
- 2年以上事業を営んでいる方は、前々年1/1から前年の6/1までの期間に「税抜き売上1,000万円」を超えていれば納税が必要
- 1年以上2年未満の方は、前年の1/1~6/1までの期間に「税抜き売上1,000万円」を超えていれば納税が必要
- 1年未満の方は、売上に関係なく納税が免除される
消費税の計算式
消費税の計算式は、下記2種類の方法のどちらを利用するかで異なります。利用しやすい方を選びましょう。
①原則課税方式
お客様から受け取った消費税から「仕入れ」や「その他経費」で支払った消費税を引いて税額を計算する方法。正確な数字を算出できますが、受け取った消費税・支払った消費税など細かな管理・計算が必要です。
計算式
(1年間の売上(税抜)×10%(消費税))-(1年間の仕入れや経費で支払った費用(税抜)×10%(消費税))=納付する消費税
例)売上500万円、仕入れ200万円、その他経費100万円の場合
(500万円×10%)-(300万円×10%)
=20万円(納付する消費税)
②簡易課税方式
お客様から受けった消費税に、業種ごとに決められた一定の割合(みなし仕入れ率と言います)をかけて算出する方法。計算がとても簡単なことが特徴です。
専門的な経理や事務員がいない小規模事業者に向けた方式です。ただし、大まかな数字で税額が算出されますので、事業者の比率次第では、損をする可能性もあります。
簡易課税方式は特例のため、以下の条件を満たす必要があります。
- 前々年の「課税売上高が5,000万円以下」であること
- 課税期間の開始日前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出すること
また、一度許可が下りると最低2年間は適用しなければなりません。ザックリとした計算ですから、業種や事業内容によっては有利にも不利になります。
業種ごとの、みなし仕入れ率は下記のとおりです。
みなし仕入れ率一覧表
事業区分 | みなし仕入れ率 | 該当事業 |
第1種事業 | 90% | 卸売業 |
第2種事業 | 80% | 小売業 |
第3種事業 | 70% | 農業・林業 漁業・建設業 鉱業・製造業 |
第4種事業 | 60% | 飲食店業 |
第5種事業 | 50% | 運輸通信業 金融・保険業 サービス業 (飲食店業は除く) |
第6種事業 | 40% | 不動産業 |
計算式
預かった消費税-(預かった消費税×みなし仕入れ率)=納付する消費税
例)預かった消費税50万円、第5種事業
50万円-(50万円×0.5)=25万円(納付する消費税)
個人事業税
個人事業主になると「所得税」と「住民税」の他に、「個人事業税」を納める義務が追加されます。個人事業税は、確定申告を行なう必要があります。その後、8月頃に都道府県税事務所から「納付通知書」が届き、納税をするという流れです。
所得税のように基礎控除や青色申告特別控除は適用されませんが、代わりに「事業主控除」というものがあり、一律290万円の控除が適用されます。
さらに、個人事業税は経費として認められるため、個人事業税を経費として計上すれば節税にもつながります。
ポイント
- 個人事業税は、基礎控除や所得控除、青色申告特別控除は適用されない
- 納付時期は通常8月・11月末の2回。地域によっては、一括納税も選択可
個人事業税の計算方法
まず、ご自身の業種が「どの税率に該当するか」を確認することが必要です。個人事業税は、地方税なので、住んでいる都道府県で税率が異なる場合があります。
詳しく知りたい方は、各都道府県事務所または都道府県のサイトを参照してみてください。
下記の一覧表は東京都の税率です。

計算式
(売上-経費-専従者給与-各種控除)×税率
=個人事業税
例)売上600万円、経費200万円、妻に支払っている給与100万円、各種控除(事業主控除)290万円で飲食店を営んでいる(5%)の場合
(600万円-200万円-100万円-290万円)×5%
=5,000円
事業主控除額が290万円と大きいため、0円以下になることもあります。その際は納税の義務はありません。
償却資産税
償却資産税とは、固定資産税の一種で「事業用の償却資産」が対象の地方税です。償却資産税と固定資産税の違いは、「土地や建物」(固定資産)にかかるか、「機械や備品(パソコンや机)」(償却資産)にかかるかの違いです。
償却資産税の対象となるものは、1つあたり「20万円以上する機械や設備」です。「20万円以下のもの」は「消耗品費」や「雑費」に該当します。
ポイント
- 1つ20万円以上する機械や設備が償却資産税の対象となる(看板やエアコンなど)
- 自動車は自動車税を支払っているので償却資産税の対象外
- 別で経費控除したものは計上できない(経費控除は重複できない)
以下の表は、種類別に償却資産をまとめたものです。
代表的な償却資産
種類 | 申告対象となる主な償却資産の例示 |
パソコン機器 | パソコン・プリンター・LAN設備など |
電化製品 | エアコン・ヒーターなど |
内装関係 | 応接セット・テーブル・イスなど |
設備関係 | 看板・照明など |
償却資産税の対象にならないもの
- 購入代金が10万円未満で消耗品費などで経費計上したもの
- 購入代金が20万円未満で3年均等の
一括償却したもの
簡単にいえば「購入額20万円未満で白色申告や青色申告など別で経費計上したものは、償却資産ぜいの対象外」ということです。
償却資産税の計算方法
償却資産税は、取得価格、取得年月および耐用年数に基づいて1品ごとに評価額を算出します。少し複雑な計算なので、例を交えながら、順を追って解説していきます。
例)令和2年度の評価額と税額を、以下の表をベースに算出していきます。
①所有資産を整理
所有資産は以下と仮定します。また、耐用年数と減価率は各市町村のホームページなどで確認することができます。

※1 東京都主税局<償却資産の評価に用いる耐用年数>
※2 東京都主税局<減価残存率表>
②評価額の算出
償却資産は年々、価値が下がっていきます。まずは償却資産の現時点での価値、すなわち「評価額」を算出していきます。計算式は「昨年」「一昨年より前」の「いつ取得したか」で変わってきます。
昨年中(令和元年)に取得した資産の計算式
(事務机・エアコンが該当))
取得価格×(1-2/r※1)=評価額(令和2年)
一昨年(平成30年)より前に取得した資産の計算式(ビデオカメラが該当)
- 取得価格×(1-2/r※1)=前年度評価額
(令和元年)
- 前年度評価額(令和元年)×(1-r※1)=評価額
(令和2年)
※1 耐用年数に応じた減価率 東京都主税局<償却資産の評価に用いる耐用年数>

※小数点以下第4位を四捨五入しています。
※課税標準額が150万円未満の場合は、課税されません。
③償却資産税の計算式
評価額の計算を終えたら、あとは税率をかけて納税額を計算しましょう。税率は「一律1.4%」です。
課税標準額(1,000円未満切り捨て)×税率(1.4%)=償却資産税
1,630,000×0.014=22,820円
今回の納付する償却資産税は、22,820円となりました。
ちなみに、算出した評価額が「取得価格の5%を下回る」場合は、「取得価格の5%」が評価額となります。たとえば、取得価格が1,000,000円で、そのときの評価額が30,000円だった場合、取得価格が3%となります。この場合、基準値(取得価格の5%)を下回っていますので、評価額は50,000円になるということです。
償却資産税の納付までの流れ
1.毎年1月1日時点で所有している償却資産を元に、その年の1月31日までに所在の市区町村に「償却資産申告書」を提出する
2.償却資産の価格は申告および調査で決定され、市区町村に登録される(登録された価格は関係者のみ閲覧可能)
3.4月頃に納税通知書が交付される
もし、算出された価格や課税額に不服がある場合は、登録された日、もしくは納税通知書を受け取った日から3か月以内であれば審査のやり直しを申請することができます。(審査申出書や審査請求書で対応可能)
4.納期
納期は、年4回、4月・7月・12月・翌年2月の末を原則としていますが、市町村の条例によって異なる場合があります。(東京23区の場合は、6月・9月・12月・翌年2月の末)
納付は、役場や金融機関などの窓口で現金納付もしくは、口座振替ができます。
償却資産税の申告書はこちら固定資産税(償却資産) | 申請様式 | 東京都主税局
まとめ
個人事業主が払うべき税金と計算方法についてご説明しました。
ポイントは
- 税金の「申告時期」と「納付時期」を把握する
- 申告にそなえ、こまめに帳簿を付け、領収書は保管しておく
- 申告方法や売上・扶養などの状況によって計算方法が変わる
- 20万円以上する設備や備品は確定申告とは別に償却資産税の申告が必要
以前であれば、自分で帳簿をまとめたり、帳簿に従って自分で計算をする必要がありましたが、最近では自動で税額を計算してくれるソフトや簡易シュミレーションツールを使うことで、税金の計算が楽にできるようになりました。
しかし、ツールがあるからといって、基礎的な知識がなければ間違いに気付くことができません。基本的な内容だけでもしっかりと理解しておきましょう。
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